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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)510号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人石橋三二の上告趣意は「一、記録によれば本件は第一審として岡山地方裁判所に於て裁判長判事平井林外二名の判事によって審理せられ昭和二十二年五月十五日裁判長判事平井林、判事林歡一、同則井登四郎によって判決の言渡が為されたのである。而して控訴は廣島高等裁判所第二刑事部によって審理せられたのであるが同裁判所が昭和二十二年十二月二十三日為した勾留更新決定(記録二七五-B)は裁判長判事桑原五郎、判事平井林、同佐伯欽治が決定したものである。然し乍ら判事平井林は刑事訴訟法第二十四條第一項の八號前段によって第二審の右職務執行より除斥せらるべき處敢てこれに關與した違法がある。二、吾人は憲法第三十一條によって法律の定める手續によらなければ自由を奪はれない權利を持ってゐる。扨て本件の場合をみれば被告人は一、記載の勾留更新決定から引續き今日迄勾留されてゐるのであるが右の勾留決定は一、記載の如く違法のものである。換言すれば被告人竹内鉄哉は法律違反の勾留決定によって身體の自由を奪はれてゐるのであるから之の點憲法違反と謂はなければならない。三、假りに違憲でないとしても、刑事訴訟法第四百十一條は若干の法令違反があっても其れが判決に影響を及ぼす程のものでなければ上告の理由として認めない旨を規定してゐるが之は専ら訴訟経済上の立法趣旨と思はれる。又同法第四百十條第一項の二號によると職務執行より除斥せらるべき判事が審判に關與したときは無條件に上告理由あるものゝ如く規定せられてゐるが然し実際は審判の内容により其れが判決の基礎となったかどうかによって理由の有無を區別してゐる。從って本件の如く單に勾留更新決定に平井林判事が關與した程度のものは同法に該當しないと云ふのが從來の解釋である(之れも一つの訴訟経済的な考えである)。勿論本辯護人と雖も之の考え方に對して絶對的に反對するものではないが新憲法は特に個人の自由を尊重してゐる。又刑事訴訟法の應急的措置に關する法律に於ても身體の拘束に關しては詳細な且つ厳格な定めをしてゐる今日に在っては『被告人の身體の自由を拘束する勾留について違法があるときは假令それが判決の基礎と因果の關係なくも常に上告の理由あり』と解釋を改むべきものであると考える。」というにある。

しかし、第二審判決に對する上告は、その判決自體か、又はその判決の基本となった審判の訴訟手續が法令に違反したことを理由としなければならないのであって、かりに本件被告人に對する拘禁が、辯護人の主張するように、その拘禁繼續の中途において、勾留更新の手續に違法があったとしても、それは別途に救済の手續を履践すべきものであって、そのことが直ちに原判決自體を違法ならしむるものでもなければ、また判決の基本となった審判の手續に違法があったともいえないのであるから、結局、論旨は原判決に對する上告の理由として、適法なものということができないのである。(昭和二三年三月二〇日言渡、最高裁判所昭和二二年(れ)第二二五號事件第二小法廷判決、同二三年七月一四日言渡、同裁判所昭和二三年(れ)第六五號事件大法廷判決参照)

以上の理由により刑事訴訟法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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